至適用量(optimal dose)と最小有効用量(minimum effective dose,MED)
私が就職した1996年前後,というより今もそうかもしれませんが,用量探索試験の目標は以下の2点で集約されていたように思います。- 少なくとも「薬として有効」な用量を選ぶ
- 同じ有効性ならば,安全性の観点からできるだけ低い用量を選ぶ
当時は「至適用量」という表現でこの考えを表していたように記憶しています。
実際の臨床試験では安全性データも加味して,現実的に「至適用量」を決めることになりますが,ここでの事例ではどうやってこの「至適用量」を探り出すか?
当時多く引用されたのは「最小有効用量(minimum effective dose,MED)」の考え方で,簡単に言えば「十分な有効性を示す用量のうちで最小のもの」を探ろうというものです。実に単純。
そこで当時は「プラセボ対照試験であれば,プラセボと有意な差のある最小用量を見つければよい」という考えに至ったようです。ただし,単純に対比較を繰り返すと第1種の過誤率増大を招くので,適切に調整をする必要があります。
多重比較
ここでは「Bonferroni法」「Dunnett法」の2種類の調整を用いて片側P値を計算しました。結果は以下の通り。比較 | 未調整P値 | Bonferroni調整済 P値 | Dunnett調整済 P値 | |
0 vs. 0.05 | 0.3103 | 1.0000 | 0.6033 | |
0 vs. 0.2 | 0.0208 | 0.0831 | 0.0655 | |
0 vs. 0.6 | 0.0052 | 0.0206 | 0.0178 | |
0 vs. 1 | 0.0043 | 0.0173 | 0.0151 |
有意水準を片側2.5%と設定すると,有意差ありとなった結果には下線を引いています。多重性は調整が必要なので,Bonferroni法もしくはDunnett法を主解析と定義すれば,
- MEDは0.6
- 1をその後検討対象とするかどうかは要検討
- その他の用量は以後の検討対象から外す
この結論の問題点
上記のMEDを巡るロジックについては,当時もいくつか問題点が指摘されていました。問題点1:サンプルサイズによってMEDの結論が変わり得る
統計的検定のみをMEDの基準にしてしまうと,サンプルサイズが小さいとMEDを高く推定する傾向が強くなるのが道理です。逆に言えば,サンプルサイズがとてつもなく大きい用量探索試験では,かなり低い用量でもMEDになり得る。なんだかおかしい話です。問題は「薬として有効」の基準が統計的検定の結果しかない,つまり「効果ゼロでなければいいや」という発想にあります。
MEDの評価基準は決め事なので「これでいいのだ」とスポンサーが言うのは勝手ですが,元の至適用量の概念からは逸脱しています。
問題点2:用量反応関係が全く考慮されない
上記結論は「プラセボとの多重比較を並べた」だけで,結論として用量反応関係につなげることは難しいです。- ある種の用量反応関係が成り立てば検出力が高い
- その用量反応関係が成り立たなければ,検出力が低くなる
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